政治経済学入門
講義概要
21世紀を迎えた現在、経済システムは大転換のなかにあります。一つは、大量生産・大量消費型の経済活動の拡大が地球的規模で深刻な環境問題を引き起こしていることです。二つ目は、北の国でも南の国でも雇用の女性化が進み、職場と家庭における両性の平等を求めるフェミニズムの流れが強まっていることです。三つ目は、東アジアや南アジアにおける本格的な経済成長が始まり、世界経済が大競争の時代に突入していることです。四つ目は、ソ連・東欧のいわゆる社会主義経済の挫折による市場経済の地球化と知識集約的経済の進展が同時に進行していることです。五つ目は、2008年秋のアメリカ発の金融危機と世界同時不況の深刻化に見られるように、金融主導型経済が挫折したことです。21世紀の世界経済と日本の社会経済システムはこれらの問題と取り組むことを通じて、切り開かれてゆくものと考えられます。
このような「経済システムの転換」を考えるうえで、『資本論』を書いた19世紀の代表的な経済学者であるマルクスは重要なヒントを与えています。彼は資本主義の動態と変化のダイナミズムを説いて、20世紀の代表的経済学者であるケインズやシュンペーターに大きな影響を及ぼしました。しかし、20世紀の経済は新しい問題を提起しました。先に述べた一連の問題群がそうです。この講義では、近年の欧米で影響力を広げ、日本でも論議を呼ぶようになってきた「歴史と制度の新しい政治経済学」の流れに注目し、20世紀の経験を振り返りながら、現代経済の諸問題を検討し、21世紀の社会経済システムについて考えたいと思います。
春学期講義の構成
序章 政治経済学とは何か:その意味とねらい
- 経済とは何か
- 政治経済学の対象
- 再生産の経済学
- 制度の経済学
- 民主主義の経済学
第一部 資本主義システムの基本構造
- 人間と社会と自然
- 市場経済の生成と商品
市場経済の存立条件
市場経済の論理と商品の2要因 - 貨幣と市場経済の発展
- 市場の機能と欠陥
- 剰余価値の生産
- 再生産と蓄積
第二部資本主義の制度的基礎
- 生産システムとその変化